突然ですが、以下のような人について、どう思いますか?
・ Aさんは、26歳男性、会社員(SE)。現在、東京でひとり暮らし。
・ 実家は神奈川にあり、父(61歳・医師)、母(59歳・大学事務)、弟(22歳・医学部大学生、休学中)の3人がそこで暮らしている。
・ Aさんは今、知能検査を受けたいと考えている。上司から「仕事に時間がかかりすぎている」と注意されることが多いため、その原因を知能検査で調べて、対策を考えたいと思っている。
この情報だけを見て、「Aさんは生まれつき、何らかの発達のかたよりがあるのだろう。それが『仕事に時間がかかりすぎること』の原因なのだろう」と思ったのだとしたら、その人は判断が早すぎます。
また、「発達のかたよりではなく、家庭環境に何らかの原因があるのだろう」と思ったのだとしたら、その人も判断が早すぎます。
こんな少ない情報だけで、「仕事に時間がかかりすぎること」の原因が、推測できるはずがないのです。
もしかしたら、Aさんは今、職場の人間関係に強い不安を感じているのかもしれません。その不安のせいで、上司や先輩に仕事のやり方の相談ができず、その結果として仕事がスムーズに進まないのかもしれません。
あるいは、上司や先輩が忙しすぎて、Aさんに効率的な仕事のやり方を教える余裕がないのかもしれません。
もちろん、発達のかたよりが原因になっている可能性も、家庭環境が原因になっている可能性もあります。また、発達のかたよりも家庭環境の問題も、どちらもある、という可能性もあります。
そして、それらはすべて憶測です。「仕事に時間がかかりすぎる原因」は、上に書いたような少ない情報だけでは「わからない」のです。それを少しでも正確に推測するためには、Aさんに関する、もっとたくさんの情報が必要です。
ただ、「わからない」という状態に居心地の悪さを感じる人は多いかと思います。このため、ついつい「この人は発達のかたよりがあるに違いない」とか、「家庭環境の問題があるに違いない」といった、早すぎる判断(=決めつけ)をしてしまう場合が多いのではないかと思います。
早すぎる判断を防ぐためには、「わからない」ことの居心地の悪さを、ある程度は我慢しなければいけないのかもしれません。
※ 本エッセイは継続的に更新されます。毎回、発達障害やそれに関連するお悩みをテーマとし、そのお悩みの理由や対処法を考える上で役立つ知識・考え方などをご紹介いたします。