発達障害ではない人は「定型発達者」と呼ばれますが、定型発達という言葉は「何の独特さもないこと」を意味しているわけではありません。ここで言う「定型」というのは、あくまで「発達障害ではない」という意味であって、独特な(=少数派的な)特徴のある定型発達者は大勢います。
これはつまり、「発達障害ではないけれど、独特な特徴のある人」は大勢いますよね、という当たり前の話です。しかし昨今、「何らかの『独特さ』が見受けられる人は、それだけですぐに周りの人たちから『発達障害』だと見なされてしまう」というケースが多いように感じます。
例えば、視覚の特徴は人によって個人差があり、「一度に広い範囲を見ること」が得意な人もいれば、苦手な人もいます。これがかなり苦手な人は、飲食店のホールの仕事のような、広い範囲を見ることが必要な課題でつまずきやすいです(「店内全体を見渡すのが苦手なため、お客さんの要望に応えられない」といったことが起こりやすいです)。
そして、定型発達者で、なおかつこの「一度に広い範囲を見ることがかなり苦手」という独特さのある人が、「飲食店のホールの仕事がうまくできなかった」という出来事だけを根拠に「発達障害なのでは?」と周りから言われてしまう――そのような事態が、割とよくあるように思います。
広い範囲を見るのが苦手であることは、発達障害の特徴ではありません。ただ、その特徴があると、飲食店での接客応対のような「広範囲を見ながら行うコミュニケーション」にはつまずきやすくなります。そして、その人のつまずいている場面だけを見た周りの人が、「コミュニケーションにつまずいているから、ASD(自閉症スペクトラム障害)なのでは?」といった印象を持つことがあるのです。実際はその人はASDではなく、広範囲を見なくてもいいコミュニケーション(会議室内での話し合いなど)は、かなりスムーズにこなせているかもしれません。
だから、「その人が発達障害なのかどうか」を考える際には、「何か独特な部分があれば発達障害」という単純すぎる見方をしないことがとても重要です。「広い範囲を見ることがかなり苦手」といったような、発達障害の特徴とは違う独特さも存在するわけですから。
※ 本エッセイは継続的に更新されます。毎回、発達障害やそれに関連するお悩みをテーマとし、そのお悩みの理由や対処法を考える上で役立つ知識・考え方などをご紹介いたします。