「人によって向き不向きは違う。だから、自分に向いていることを見つけて、それを頑張ればいい」
この考え方は、発達障害のある人が力を発揮するための方針として重視される場合が多いかと思います。確かに、人は「明らかに苦手なこと」に無理して取り組むと、調子を崩す場合が多いです(発達障害がない人でもそうなりがちです)。だから、「自分の向き不向きをよく考えて、向いていることで頑張る」というのは、基本的には適切な考え方だと思います。
ただ、向いていることを探そうとした結果、
「何かにチャレンジして、少しでも失敗したら、それを『自分には向いていないこと』と見なしてすぐにあきらめる」
という極端な考え方をしてしまうのは問題です。
当たり前の話ですが、「自分に向いていること」にチャレンジする場合でも、最初からまったく失敗せずにそれをこなすのはまず不可能です。失敗し、その失敗に基づいてやり方を修正し、また失敗し、修正し……という、地道な試行錯誤がある程度は必要です。
「自分に向いていることを頑張ればいい」という言葉を、「失敗はつらいから、とにかく自分が失敗しない分野を探すべきなのだ」というふうに解釈してしまったら、失敗を通して学んでいくことをひたすら避けるようになってしまいます。そのように、「自分が失敗しない分野」をひたすら探してみても、うまくいくことはほぼないだろうと考えられます。まったく失敗しないで済む分野など存在しませんし、それを探し続けるということは、結局「トレーニングを避け続けること」に過ぎないからです。
だから、「自分に向いていることを頑張ればいい」という考え方も、「失敗をしてもいい。失敗から学べることはたくさんある」という考え方も、どちらも持てるのが健康的なのだと思います。この2つの考え方は決して矛盾しません。「向いていること」をやるときも、人はたいてい失敗しますし、その失敗はスキルを高めていくために必要な過程なのですから。
※ 本エッセイは継続的に更新されます。毎回、発達障害やそれに関連するお悩みをテーマとし、そのお悩みの理由や対処法を考える上で役立つ知識・考え方などをご紹介いたします。