発達障害のある人が何かにつまずいているとき、つまずきの主な原因が「発達障害の特徴」である場合はよくあります。例えば、ASDのある人が多人数相手の接客業につまずいているとき、その主な原因が「注意の切り替えの苦手さ(ASDの特徴のひとつ)」である、という場合はよくあります。切り替えが苦手だと、多くの人への対応を一気に行うのが難しくなりがちだからです。
ただ、発達障害の特徴ではなく、「トレーニング不足」がつまずきの主な原因になっている場合もよくあります。
例えば、「ASDはあるけれど知的障害はない」という人が、学校の試験の成績がかなり悪くて困っている、という状況を想像してください。もしその人が、家でほとんど試験勉強をしていなければ、成績の悪さの直接的な原因は「ASDの特徴」ではなく「勉強していないこと(=トレーニング不足)」だと考えるのが自然です。このため、何かつまずいたときにすぐさま「発達障害だからうまくいかないのだ」と決めつけないことが重要です。
また、「トレーニング不足になってしまう原因は何なのか?」と考えることも、もちろん重要です。そして、「トレーニングしづらい環境にいること」がその主な原因になっている、という場合は割とよくあります。
例えば、「トレーニングの内容を提案してくれる人が身近にいないので、具体的に何をすればいいのかがわからない。だからトレーニングを続けられない」というケースは、珍しくありません。学校の校風が自由すぎて、担任の先生が「試験の成績を上げるためにやるべき課題」をほとんど出さないような状況では、「何をしていいかわからない。だから、勉強を続ける気になれない」と思う生徒も当然出てきます。その場合、課題の設定を先生に頼むなどの、環境への働きかけがある程度は必要になります。
これは言いかえると、トレーニング不足は必ずしも「本人がなまけていること」を意味しない、ということです。「なまけの問題ではなく、今の環境をまったく変えずにトレーニングを頑張るのは、さすがに難しくないか?」という状況は、確かにあります。
※ 本エッセイは継続的に更新されます。毎回、発達障害やそれに関連するお悩みをテーマとし、そのお悩みの理由や対処法を考える上で役立つ知識・考え方などをご紹介いたします。