(前々回~前回に書いたとある男の子の話について、引き続き解説をします。なお、この男の子の話は架空のエピソードであり、実在の人物等との関係はありません)
前々回〜前回にかけて、「塾での厳しい指導に疲れ果てて、学習意欲がものすごく低下しているのに、『あなたは発達障害だから宿題になかなか手がつかないのだ』と見なされてしまっている男の子」の話をしてきました。この子が塾でとても傷つき疲弊したという「事情」が無視されてしまうと、この子はますます意欲を失うかもしれない、という話でした。
このような「その子の個別の事情」を無視して「発達障害だから〇〇すべき」という一般論だけを当てはめることは、あまり望ましくありません。そして、「その子の個別の事情」には、家族の関わり方なども当然影響してきますから、「家族の事情」が無視されるのも望ましくありません。
例の男の子の場合は、「両親が子どもの将来に強い不安を感じがち」という「家族の事情」があります。
男の子の両親は、
「この子の先行きを過剰に心配して、厳しい塾に行かせた(もともとは宿題ができていたのに)」
「この子が塾を嫌がってもやめさせなかった」
という関わり方をしました。皮肉なことに、それがこの子の学習意欲を低下させ、彼は宿題をやらなくなりました。
ここで重要なのは、この両親に対して「ひどい関わり方をする親だ!」と漠然と非難することではなく、「なぜそのような関わり方をしてしまうのか?」を考えることだと思います。つまり、「両親がそこまで子どもの将来を案じて焦ってしまうのはなぜか」を考えることが重要です。
例えば、「この両親はふたりとも幼少期~青年期に、自分の親や教師から『勉強ができなければ悲惨な人生になるぞ』と強く言われてきた」といった事情がある(そう言われてきたせいで、「自分の子どもが悲惨な人生を歩むのでは」という不安を人一倍感じやすい)かもしれません。その場合、「両親の不安を軽くする方法を考えること」も、子どもが宿題をやらない問題への対策の一種になります。
もしこのように両親の事情をふまえなければ、この子がいくら「発達障害の特徴に合わせたトレーニング」などをしても、「両親がこの子を急かす→そのせいでこの子が意欲を失う」というパターンはずっと変わらないかもしれません。改めて強調しますが、たいていの問題は、「発達障害だから〇〇すべき」という一般論だけでは簡単に解決できません。
※ 本エッセイは継続的に更新されます。毎回、発達障害やそれに関連するお悩みをテーマとし、そのお悩みの理由や対処法を考える上で役立つ知識・考え方などをご紹介いたします。